生産者紹介

九州ブロック 副ブロック長 川越 俊作 氏                      
ラッキョウ畑にて


川越俊作さん 宮崎県宮崎市 前編
● 肥毒は簡単には抜けない!肥毒について心がけることとは……!
● 自然栽培だから向き合えたラッキョウの植生とは……!?
● これから自然栽培に取り組む方へのメッセージ


■第一章 自然栽培をはじめたきっかけ
田辺 最初に自然栽培をはじめられたきっかけを教えていただけますか?
川越  いろいろとあるのですが、一つには家族の体調があります。15年以上前、母が農薬で体調を崩して入院したことがありました。母を通して農薬の危険性を感じていました。また妻はとても敏感肌でした。だから、いろんなものに反応していました。宮崎県はタバコの産地です。タバコは相当な量の農薬を夏場に使います。妻にとっては、地域に飛散するタバコの農薬もつらかったことだと思います。そしてタバコのヤニの影響もあり、すごく肌がかぶれていました。家族の体調を考えると、このまま農業を続けることに疑問を持っていました。


 もう一つは、一番大事な部分です。慣行栽培では、私の母や妻のようなことを伴ってしまう農業だということに、行き詰まりを感じていました。そう考えると本来の「食べ物」の意味を考えたとき、慣行栽培は安心安全とは程遠い。だとするなら本当に安心安全なものを自分は作りたいと思ったのです。


田辺 なるほど、ご家族が農薬で健康を害して農法を変える方は多いですね。
川越 そうですね。15年前、もうこのままやっていても仕方がないと判断し、栽培を変えていくことにしました。少しずつ2反3畝(約690坪)の面積からはじめました。
 農薬で家族が身体を悪くした体験もあり、有機栽培や無農薬栽培が向かうべきところだと必然的に感じていました。だれに聞いたわけではないですが、やっている人はいるわけだから、有機栽培や無農薬栽培をやってみようと思ったのです。最初は、試行錯誤でした。でも自分なりの感覚の中で栽培していました。


 当初、4年間は何もできませんでした。種を蒔き植えれば、虫・病気で全滅する姿を繰り返し見てきました。大根やジャガイモやサトイモなど、さまざまな農産物を試しました。それが全部全滅でした。
 それでも4年目あたりで少量ですが、できはじめてきました。自然栽培をはじめる以前のこのころは、土づくりといっても、一般栽培の土作りで、1年目は牛糞。2年目から草を使っていました。


緑肥、大豆、えん麦、ソルゴー、レッドクローバーを使ったりしていました。その当時は、大豆がいいと思っていました。
その後、いろいろな人との関わりがありました。現在の自然栽培全国普及会、九州ブロック・ブロック長の冨田さんとの出会いは特に大きなできごとでした。他にもいろんな人との関わりの中でヒントを得てきました。自然農法・自然栽培という文字に出会い、その中で自分なりの自然農法という文字を考えていきました。無肥料無農薬になっていたのは8-9年前からです。
高橋会長や河名代表、ナチュラル・ハーモニーのみなさん。さまざまな人との出会いが自分のヒントとなりました。


田辺 川越さんは、やはり品質に強いこだわりをもっていらっしゃいますね。
川越 何よりも品質が大事だと思っています。品質がよくなれば、収量はあがります。食べておいしければ、お客様に伝わります。

 肥料を使った有機栽培をしていた当時、美味しいといわれたのは大根だけでした。でも本来、他の野菜もすべておいしくないと、おかしいはずだと思いました。「なにかが違う!」そう思ったのです。草を使っている時期もありました。土作りを草でしていたんです。草がいいのかわるいのか自分で納得したかったのです。


草を積んで作った堆肥

 そこから3年。結局のところ外から持ち込んだ草の堆肥で土作りをした圃場の野菜はおいしくはないと感じました。使っていて、味が全体的に落ちてきたんです。エン麦やソルゴーの方がなんぼかいいと感じました。


 そんなとき、高橋会長やナチュラル・ハーモニーの河名代表、スタッフのみなさんとの出会いの中で、「肥毒」というものに出会いました。「土と種から肥毒を抜くこと」。今まではまったく知らなかった言葉。当然、意識もしていない未知のことでした。このことを自分なりに考えることで栽培のスタンスが変わっていきました。


第二章 肥毒は簡単には抜けない
田辺 10年以上前に肥毒とその肥毒への取り組みを高橋氏から聞いたとき、私も目からウロコが落ちる気がしました。川越さんはどのように感じていらっしゃいますか?
川越 宮崎県は畜産県なので、肥毒については本当に苦労します。「肥毒は簡単には抜けない。3年やそこらで抜けるものではない。」これが実感です。ここまでやってきて思うことは、自然栽培全国普及会や高橋さんや河名さん、ナチュラル・ハーモニーさんがこれまでセミナーやいろんな場所で言ってきた自然栽培の理念・原理の中身をちゃんとやれるかどうかが分かれ道だと思います。それをやれば早くできる。だけど、そこに私情が絡んだり、現代農業を引きずった自分流を加えたりするから自然栽培の成功が遅れる。肥毒の解消が遅れるのです。
田辺 なるほど。肥毒を抜いていくのにどういったことに留意されていますか?
川越 もう一つは肥毒を抜く作物をちゃんとタイミングを計ってできるかどうかということが重要になります。肥毒を抜こうと思っていたとしても、小麦や大麦はわずかな収入にしかなりません。ましてソルゴーやエン麦は、お金にはなりません。一般栽培だったらその間、換金作物をつくれるわけです。経営を考えるとどうしても肥毒を抜くことよりも、お金になる作物の栽培を先にしてしまう。
数字だけをみた経営をすると、かえって遠回りになります。主たる目的をしっかりと肥毒において無理なく計画を立てる必要がありますね。自分は考えたらやるたちです。だから徹底的にやってきました。
土をみて確認するために、指標的に作物を栽培しています。そして作物のできばえをみて、これでいけそうだと思ったら作物を本格的に栽培しています。

田辺 ほかにも、作物の収穫量が悪かった、病気が出たといったときに、肥毒をどのように意識するかが問われますね?
川越 そうですね。今年、うちのゴボウは全く駄目でした。虫病気はまったくでなくなってきたんだけれど、太らない状況です。はじめてだったこともあり、株間の問題もあり、収穫できませんでした。一般的にいえば、ここで心理的に落ち込むはずです。しかし自分はそうは捉えません。自然栽培の農家はそうですよね。作物が虫や病気に犯されることによって土の肥毒を吸い出してくれているわけですから。このおかげで、病気になったごぼうのおかげで、肥毒を抜くことは進んだ!これで来年はよりよくなる!そう思うことで自分を保つことができます。


においをかぐと吐き気すらする家畜糞尿のたくさん入った一般栽培の土 


第三章 植物の植生に向き合う技術 〜ラッキョウ〜
田辺 他に栽培技術として気にしていらっしゃることはありますか?
川越  そうですね。播種するタイミングはかなり気にしています。そこが7割。土の改善には時間がかかるので、種をタイミングにおいては条件を変えようがない。その状態を受け入れるしかありません。だから、その場所にあわせて栽培する必要があります。一方で植物の方はもっともっと工夫というか知っていくことが大切だと思っています。播種のタイミングを初めてのものであれば最低でも3段階にわけています。そしてどのタイミングで播種するのがいいか探ります。植物それぞれの特性があるのでそれを掴むようにしています。
植物にもそれぞれの特性が絶対にあります。人間の個性と一緒ですね。それを探っていく。そして、お客さんに一番いいときに出荷するタイミングも探っています。播種の深さ、株間など常に考えていますね。


自家採種のラッキョウ畑 

田辺 ラッキョウについては、かなり掴んだとおっしゃっていましたが、聞かせていただいてもいいですか?
川越 ここ数年、自然栽培を行ってきた中で畑によっては良い結果も、悪い結果も見てきました。まだまだ試行錯誤の連続ですが、改めて自然循環の意味、観察学の大事さを痛感しています。私の栽培している農作物の中でラッキョウが多いのですが、5年前からすると栽培技術はだいぶん変わりました。もちろん種採りの方法、保存方法も変わりました。どのように変わったかは、なかなか言葉にするのは難しいのですが、種を蒔く時期、種を植える深さ、種を植えた後の管理の方法を変えました。


ラッキョウの根

 現在、私のラッキョウは8〜14個くらいの分球数で収穫するようにしています。種の植え付け時と収穫前(1週間位)は土寄せを行いますが、それ以外除草はするものの土寄せ等の作業はしないようにしています。土寄せにより、根を切るような作業を行うことはラッキョウがストレスを感じてしまい分球してしまうからです。生育にも影響してしまいます。
1ヶ1ヶが、しっかりとできるように現時点ではこの方法をとっています。収穫量は、一般の半分以下1.3〜1.5トン/反です。一般栽培は2〜2.5トン/反ですが、いいものをしっかりと採れば、十分成り立ちます。


ラッキョウの花


第四章 土にあわせた対応をする
すべての畑が理想的にできているわけではありませんが、畑によっては納得できるようになりました。これから先、まだまだ植物と自然に対する考え方は変わっていくと思います。それにつれて農業技術も変わるかもしれません。近い将来、自然栽培の農産物でもっと自分らしさが表現できるようになりたいと思っていますね。
ラッキョウは、6-7月収穫しますが、10月に播種します。すると緑肥は入れられて一回。普通に考えると腐植が足りません。それでも連作で作り続けている場所もあります。播種前に分解できないようなら緑肥を入れない方が、しっかりした実がつく場所もあります。
8-9年の自然栽培をしている圃場は、草も、牛糞もなにも過去に入れていない場所もあります。当然ですが畑は1枚1枚性質が違いますね。そして1枚の中でも、場所によって違うのでやり方を変えました。圃場によってやり方をわけています。自然栽培の摂理にあっていくことで、いい作物ができると感じています。
そして、堆肥といっても自分の畑の外から持ってきて投入するのは本当によくないですね。草を外からもってきていた一番年月の長い畑があります。エン麦からソルゴー、大豆だけのところもあります。過去、草堆肥を使っていたところはだめです。ものはできますが、センチュウがすごく出ていますね。草は結局、反当りの投入量を少なくしても味はアウトですね。反当、300kgでもだめです。味は落ちて泥臭くなります。
マメ科で土を作ろうと過去にしてきたところがあります。自然栽培を始める前に窒素固定を狙ってきた場所です。甘みはでるけれど、今だからいえますがマメ科で土を作った野菜だというのは、野菜ができると分かってしまいますね。本当の野菜の味を求めたいと思っています。サトイモなんかも、トロミが強くて後で甘みがくるようなサトイモがいいですね。

 後編準備中

■ 川越 俊作 氏からのメッセージ
 今の農業はみなさんご存知のように、行き詰っています。最後は自然栽培しかないと思っています。その準備をみんなですすめましょう!その土地のことは、その人にしか分からないので人に教えられるようなことはないのですが、種を蒔く時期は気をつけています。はじめて蒔く作物は最低3回時期をずらして種を蒔いています。やってみて植物の特性を知れるように、なにかがつかめればと思っています。
 
ラッキョウは大分わかってきました。慣行栽培より一ヶ月、遅く蒔いています。分球数を減らすようにしています。早く蒔いて分球させても小さくなるので、結局重量は変わりません。通常20から30に分球しますが、8から14でとめています。すると一個一個が大きくなります。あとはストレスが加わると分球数が増えるので、土寄せなど畑に入るのはなるべくやめて、除草のみ入るようにしています。肥料をやっていたらみえないものが自然栽培をやると見えてきます。そこが本当におもしろいですね。