自然栽培基準
自然栽培 栽培基準
序 文
自然栽培を私たちが普及するのは自然を尊び自然に順応し自然に学ぶ生き方、つまり自然と調和する生き方が私たちに精神的かつ物質的進化をもたらすと確信しているからです。
安心安全は外に求めるものではなく、自らの内に発見するもの、築き上げるものと考えます。ゆえに生産者は生産の場において、流通業者は流通の場において、消費者は消費の場において、自然と調和する生き方という観点から生活のあらゆる場面で、より自然と調和した生き方を選択し決断する必要があります。その個々人の選択がよりよい社会を作っていくことにつながると考えます。そこで私たちは農業においてはより自然と調和した農業を求めて来ました。わたしたちが現在の時点で最良と考えるのが自然栽培です。
自然栽培は永続可能な農業です。かつどんな環境でも生産してゆけるよう、先駆者の活動が体系付けられつつあります。
人為に偏りすぎて、自然に無知になった私たちに自然栽培は自然の偉大さと私たちの中にも生きる自然の力を紐解いてくれると確信しています。
自然栽培を実施するうえでの理念・原理原則
第1 条 自然栽培の定義
本自然栽培 栽培基準において「自然栽培」とは自然の力をいかんなく引きだす
永続的かつ体系的な農業方式の呼称です。肥料・農薬には頼らず植物と土の本来持つ力を
引き出す農業です。
第2 条 自然栽培の理念
自然栽培の理念は、「自然尊重 自然規範 自然順応」の3 つの言葉に集約されます。
この3 つの理念を農業に応用したのが自然栽培であり、普段の経済活動等のなかにも
応用可能なこの理念を普及していくことを目的とします。
第2条1 項 自然尊重
自然栽培では、土が本来持っている植物を育む力を重視、尊重します。従って、
化学肥料・農薬や畜糞堆肥等の土の力の発揮の妨げになるものは使用しません。
またそのことによって植物の持つ生命力を引き出すことを重視します。
第2条2 項 自然規範
自然栽培では、自然を先生とします。自然栽培をする上で人間の指導者は存在しません。なにか問題に出会ったとき、人に聞くことを主とするのではなく、身近な自然を手本として問題解決の糸口を見出すことを主とします。
第2 条3 項 自然順応
自然栽培では、自然の持っているリズムに順応します。日本では、春の次に夏が来て秋、冬と変化します。春の次に秋がくることはありません。何事も少しづつ、ただし確実に変化していくことを基本にします。
第3 条 普及の目的
無から有を生み出すかのような自然栽培の原理を人間の生活活動にも応用することも目的とします。また、自然栽培の普及により自然環境を保全し永続発展可能な食と農のスタイルを確立します。
さらに人と人、人と自然、人と大地のつながり、生かされている意味、いのちの本質につながる広がりと深さがこの農業にはあります。
関わる人自身に気づきをもたらし、幸福の実現に寄与する本来の食を実現するため自然栽培を普及していきます。
第4 条 自然栽培の実施
自然栽培の基本的な考え方は、土・植物の持つ本来の力を発揮させることにあります。従って、自然栽培を実施するうえでしなければいけないことは「土づくり・種作り・人づくり」の3
つになります。
第4 条1 項 土づくり
土の本来持つ力を発揮させるためには、土に余計なものを入れないことが基本となります。加えて、過去に入れた余計なものを積極的に抜き出すことに努めます。さらに植物の根張りを増進させるため、土を「軟らかく、温かく、水持ち・水はけ」がよい状態になるように努めます。
第4 条2 項 種づくり
土と同様、植物のもつ生育力を最大限発揮させるためには、種子に残った余分なものを取り除くことに努めます。また、自分の畑にあった種子を確保するためにも自家採種に取り組みます。
第4 条3 項 人づくり
土づくり、種づくりを実施するのは人間です。常に第2 条の理念に立ち返り、土づくり・種づくりに取り組むようにします。
第5 条 自然栽培への転換
自然栽培を開始するとき、原則として、農地の一部を転換し順次その面積を拡大していく方法をとります。自然栽培の原理から考えて、物事は始め小さく始まり、少しずつ広まっていくのが理想的です。拡大は計画的に行い、経営的に継続可能な設計を行うようにします。
第6条 適地適作・適期適作
栽培する作物を選定する際、適地適作・適期適作に努めます。土づくりが十分に進行していない状態で白菜やキャベツを育ててもあまりうまくいきません。土の状況に応じて作ることができる野菜はおのずと決まってくるものです。土の事情に合わせて作る野菜を選定します。
また、作物の旬を大切にします。経営上、無理のない範囲で旬の野菜を育てるように努めます。
栽培基準
第1 条 自然栽培を実施するほ場
自然栽培を実施するほ場は固定するものとし、一度始めたら、永続的に自然栽培を実施するものとします。
第2条 使用する種子・種いも
原理原則の第3 条2 項にある通り、可能な限り自家採種に取り組み、時間をかけて自らのほ場にあった種子・種いもを育み、固定していくことを原則とします。
第2 条1 項
使用する種子・種イモは原則、自然栽培で自家採種されたものとします。
第2 条2 項
他者が自然栽培で生産した種子と種イモを譲渡してもらい、使用することも可とします。但し、その場合、譲渡は一回限りとし、それ以降は自家採種に取り組むことを基本とします。
第2 条3 項
自家採種の固定化には時間がかかるので、現段階において、種子消毒をしている種子やF1 品種の種子の使用を可とします。但し、自然栽培の実施年数が進むほど、市販種子での生育が難しくなるため、自然栽培の開始と同時に主要品目の自家採種に一部からでも取り組むことを基本とします。
第2 条4 項
組換えDNA技術を用いて作り出された種子と種いもはいかなる場合も使用できません。
第3条 使用する苗
使用する苗は、原則として、以下の方法で自家育苗したものとします。
第3 条1 項 生産に使用する用土
育苗に使用する土は、原則として、田畑の土や、自然栽培実施ほ場から得られた残渣を中心にしたもの別表1 で使用を認められた堆肥等を利用するものとし、外界からの持込を極力避けるものとします。外界からの持込をする場合は、別表1
で使用可となっている資材のみを使用することとします。
やむを得ず、購入した育苗用土を使用する場合は、別表1 にあげられた禁止資材及び農薬・病虫害防除資材が含まれていないことを書面で確認の上、使用するものとします。
第3 条2 項 育苗期間の管理
育苗期間中、別表1 にあげられた禁止資材及び農薬・病虫害防除資材は一切使用しないこととします。要審査となっている資材を使用する際は、使用前に事前に自然栽培全国普及会事務局、または自然栽培全国普及会公認の流通業者であるナチュラル・ハーモニーに相談して下さい。
第3 条3 項 購入した苗の使用
原則、購入した苗の使用は認められません。但し、サツマイモやイチゴ、果樹など苗で増殖する作物については、最初の一回限り、購入苗を使用することが出来るものとします。その場合、事前に事前に自然栽培全国普及会事務局、または自然栽培全国普及会公認の流通業者であるナチュラル・ハーモニーに連絡して下さい。
その他、特別な理由があって、購入苗を使用する必要がある場合は、事前に自然栽培全国普及会事務局、または自然栽培全国普及会公認の自然栽培流通業者であるナチュラルハーモニーに相談し、了承を得て使用するものとします。
第3 条4 項 自然栽培開始1 年目の例外
自然栽培を開始する1 年目の場合、「時間的に育苗用土が用意出来ない」・「技術的に育苗に失敗する」等の事態が想定されます。その際は、事務局と相談し、適切な手段を講じることを可能とします。
第4条 土づくり
原理原則の第3 条1 項にある通り、自然栽培における土づくりの基本は「土に余計なものを入れず、清浄に保つ」「軟らかく、暖かく、水はけ・水持ちの良い土にする」の2
点です。原則として、自然栽培を開始したばかりの畑において2 作は、この2 点を基本に土づくりを行うものとします。具体的には、下記1 項及び2
項の作業を行うこととします。
第4 条1 項 過去に施した肥料等の除去
過去に施した肥料や農薬等を除去するため、降雨によって流したり、植物の根に
よって吸収・除去することを積極的に行います。
過去に施した肥料や農薬等は「固くて冷たい」部分となって土の中に集中または
散在しているので、これを降雨やイネ科作物の根等で取り除きます。
第4 条2 項 土の団粒化の促進
土を「軟らかく、暖かく、水はけ・水持ちの良い」状態にするため、植物の根の力を積極的に利用します。
土の団粒化を促進するマメ科作物やイネ科作物を作付し、土づくりに努めます。
第4 条3 項 堆肥の活用
堆肥は、土を柔らかく、暖かく、水はけと水持のいい状態にするため、つまり土壌の団粒化を促進するために用いるものとします。堆肥の素材は、「別表1」の使用可能な資材のみとします。熟度は、使用目的をよく考慮したうえで、適宜判断するものとします。
別表1 の資材であっても、自然栽培の原理・原則に反したものである場合は、さまざまな障害の原因になることがあるので注意します。
第5条 使用禁止資材
自然栽培では、土を清浄に保つことを基本としているため、別表1 にある使用を禁止された肥料や資材及び農薬・病虫害防除資材を使用できません。
第5条1項 使用肥料・土壌改良資材
別表1で使用禁止となっている肥料・土壌改良資材及びそれらを含んだ種子等は使用できません。要審査となっている資材を使用する際は、使用前に自然栽培全国普及会事務局に相談して下さい。
第5 条2 項 農薬の使用の禁止
本基準では、農薬および病害虫防除を目的とした資材は使用できません。また、それらを含んだ種子や農業資材も使用できません。
第6条 農業資材
雑草防除や地温確保、その他の目的で農業資材を使用することが出来ます。但し、第5 条1、2 項で禁止された肥料・農薬・資材を含んだものは使用できません。
第7条 周辺からの汚染防止
周辺環境から、様々な汚染物質が流れ込んでくるのを防ぐため、背の高いイネ科作物や防虫ネット等を設置することを推奨します。
別表1 肥料・土壌改良資材の使用の可否
資 材 の 種 類・名 称 | |
使用可 | ・ 自然界に存在する植物質とそれを材料とした堆肥 |
・ 作物残渣とそれを材料とした堆肥 | |
要審査 | ・ 自然界に存在する鉱物質とそれを物理的に粉砕または加工したもの |
・ 安全性の確認された土壌の客土 | |
・ 米ヌカ(水稲の苗作りのみ) | |
使 用 禁 止 | ・ 化学肥料及び化学的に合成された資材を含む全ての資材すべての化学肥料と化学肥料を混入した堆肥化学的処理をした土壌改良資材と化学的に合成された物質を含む資材化学合成農薬、重金属、放射能等が残留した資材と土壌 |
・ 人・家畜の排泄物及び人・家畜排泄物を含む全ての資材、堆肥等。家畜排泄物を原料に含む堆肥 家畜糞尿 人糞尿 その他 | |
・ 産業及び畜産・浄水場の廃棄物を含む全ての資材 水産廃棄物(貝ガラ、カニガラ等)とそれを物理的に粉砕または加工した資材。 食品工業や浄水場等の廃棄物とそれを材料とした資材 畜産廃棄物及びそれらを材料として含む資材 下水汚泥 その他 | |
・有機質肥料及び土壌改良資材粕類 グアノリン酸 骨粉 苦土炭酸カルシウム、炭酸カルシウム 全ての微生物資材 その他・ 貝化石、さんご砂・ ピートモス・ 木炭およびくん炭・ 草木灰 | |
・上記以外で、養分供給及び土壌改良を目的に施される全ての資材・堆肥等 |