生産者紹介
九州ブロック ブロック長 冨田 親由 氏 | |
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no.1 冨田親由さん ●われわれは世が世なら志士! ●西南暖地のジャンボタニシを使った除草技術とは……!? ●平成17年のウンカ大発生時も被害が少なかった自然栽培田に被害が少なかったわけは……!? 第一章 この自然栽培という農業への思い 世界中が健康で幸せになれるように! 地球のため子々孫々までみんなで取り組んでいきましょう!! 【一生かけて取り組んでいくこと】 今、自分が成功しているとも思わないが、一歩一歩あがっていることは、確実に実感しています。精神的にも技術的にもレべルが上がっていっていると思うんです。 三歩すすんで二歩がさがるような歩みだけど…… この自然栽培はやらなければわからない。やってナンボの世界かな。これから始める人にああしたら、こうしたらという気持ちはないですね。一つ一つやって、一緒に上がっていくことだと思う。 長くやっているからといって、何か特別なことではなくて、立場としては、みんな同じだと思う。同じところから進むのだと思う。あとにつながる人に偉そうにいうことはないよね。 不安が今も無いわけではないけど、以前に比べるとすごく少なくなった。すべてのものが安定してきたと感じています。失敗したとしても、失敗という気がしないですね。 そういうことが気持ちいい。そういう境地にならせてもらえたことが、うれしい。いろんな段階があると思う。どんなステージか分からないが、ステージが上がってきていると感じています。それはこの農業をやってきたことが大きい。どんなことがあっても平穏な境地を目指そうという気持ちを持ってやっています。そんな思いがあることによって自分なりにステージが上がってきているのだと思うんです。 自分たちの思いとは裏腹に現場を見ると、九州の西南団地で7〜8俵獲りたいと思っているところ実際、収穫量は平均6俵くらいですね。獲っている方は7〜8俵の人もいます。※東北・北海道では2〜3俵を経験している人もある。大潟村・宮城で平均7俵。他の地域で5〜6俵。 いまから始める方々、始めたばかりの方々は壁にあたることもあるでしょう。けれど、思いと現実のギャップを自分でつめていくことが大切です。一生かけて取り 組んでいくことだと思います。一生かける価値があることだと思う。そう思うと逆にチャレンジ精神がわいていきますね。1年、2年目、年々、そこが強くなっていく。 収穫量の浮き沈みに一喜一憂しないで、どう捉えるかが大事になります。どうしても一喜一憂してしまうものだけれど、どんな技術もまだ100%ではないし、土地にあわせた作物作りをする必要があると思う。それこそ自然規範ですね。だからこそ生活守りながら、自己責任でやる必要があると思います。 米なら6俵とれればいい。畑ならば土のやせた土地ならば、どんなに肥毒がなくてもできません。やっぱり腐植を入れていく必要が出てくるでしょう。できるなら自然栽培をはじめるときに条件のいい田畑からやることをおすすめします。畑では、森を開墾した表土がはがれたような土を開墾して使うこともあります。開墾した場所で肥料・農薬を使っていなくて肥毒がないからといって、すぐ取れるかというとそうではない。肥毒がなくても腐植が少なくてはだめですね。 だめというか時間がかかるので、時間がかかることを想定して生活を別のところで収入を確保しながらやる必要があると思うんです。 【思いを強くして、よわい齢60】 自分の技術、精神、そういうものをすべてひっくるめて、常に夢と希望がある。そういうのがこの農業をやっていて一番おもしろいこと。どんなに年をとっても生きがい、思いを強く持てる農業です。思いを強くして60歳。歳をとって、気持ちはだんだん若返っていきます。歳をとったからそれ相応に、意欲がなくなってくるかというとそうではない。逆に思いは高まっている。それを感じています。 歳をとっても、ほとんど知らないことばっかりです。どんなに年をとっても、それ以上に世の中のすごさ、いろんな人のすごさが分かる。それ以上に世の中、自然界のすごさ、厳しさを知る必要があると思う。 確かにやればやるほど、謙虚にならないといけない。自分の心を修正する姿勢がいるのではないか。昔テレビに出たとき神様から頭をたたかれたことがありました。どうしてもそんな状況だと天狗になってしまう。知らず知らずなっているものですね。私の場合そんな環境ではお金がどんどんなくなってしまいます。 いっぺんにここまできたわけではない。一所懸命がんばったという気はない。不思議な世界。今の状態に満足していないけど必要以上の欲もださなくなった。そのこともあって、回り始めた。いろんなことがありがたい。家族でいろんな話ができることも、ありがたい。導かれるかのよう。世の中の一つの型をつくってきたのだと思います。やっぱり僕らの世代は、「なにくそ」という気持ちがあったが、あったんでしょうね。 no.2 熊本県菊池市の圃場にて 第二章 技術について 種籾の処理、苗作り、ジャンボタニシを使った除草技術、ウンカの被害が少ないわけをお伝えします。みんなで研鑽するために情報を惜しみなく出し合いたいという冨田さんのお話です。ジャンボタニシについては、除草対策として西南団地ではひとつの技術として確立されています。ここで紹介していますが、冨田 親由さんも、課題を見据えつつ日々次の技術研鑽をされています。 【耕起】 いまは、可能な限り浅く耕しています。3cmくらいの深さで耕やして代掻きをしています。水田の場合深く耕す方法や浅く耕す方法といろいろあります。私の場合、深さはあまり関係ないように感じています。関係ないと感じているので、浅く耕す方が効率いいのでそうしています。浅くする方が燃料も減らないし、機械も無理しない。だからそれでいいと思っています。そして浅い方が収量のあがるという人もいます。 東北の人で、二山耕起をする方がいらっしゃいます。九州でもいるのですが二山耕起をして収穫量の上がらなかった人もいます。二山耕起で収穫量は反当3俵から4俵しか取れなかった方もあります。一方で収穫量が上がった人もいます。継続した例がまだないのですね。耕起の技術としては、もろもろ研鑽していく必要があるといえます。 【種籾】 種籾は15年以上、自家採種しています。 おととし温湯消毒せずに一部播種したことがあったのですが、シンガレセンチュウが出ました。8年間全く出ていなかったのに、消毒をしないと一揆に出たわけですね。種の状態やその他の条件にもよりますが、いくら自然といっても温湯消毒はした方がいいと思います。シンガレセンチュウが出ると、米はカメムシが食ったようになって、収穫量が1俵減ってしまいます。 九州はいわゆる苗代で苗を育てる方がほとんどだと思います。田んぼに苗を持っていきます。そして田んぼにベッドを作って苗箱を置き、山土を入れて種籾を蒔き発芽させます。苗代に使った圃場は、ずっと同じ圃場でやり続けると、苗が育ちづらくなる場合もあるので、土地を回した方がいいようにも思います。 【苗土について】 自然栽培の籾殻を苗土には入れない方がいいという意見もあるけれど、土に多少入れた方がいいと思っています。20数年、同じ苗床にいろいろ試してきました。いろんな話し合いの中で答えを見つけていくことが大事なので、なにもかも否定するとモノを言えなくなるので、徐々に答えを見つけていくのがいいと思います。 自然栽培が周りから突っ込まれたとき、「答え」を持っておく必要があるのだと思います。自然栽培の自分の田んぼで採れた、籾殻、稲ワラあたりはいいのではないかと思います。 ※自然栽培基準において、苗土への籾殻、稲ワラの使用は可となっています。 【播種量】 播種量は1箱120g程度ですが、目検討でやっています。乾燥しているモミ種を使うようにしています。 【苗作りの工夫.1】 苗つくるときの一つの工夫として、平成24年産から塩ビ管で、苗床で芽が出てきたときに少し抑えるようにしています。根と茎を押さえることで、苗の根張りをよくするためにやっています。 平成23年までは、よく近所の方からモヤシ苗みたいだといわれていました。肥料もなにも入れないから、ややモヤシのような苗だったからそのように言われたのだと思います。 今年、塩ビ管で抑えるようにしてみて、苗の時の姿は去年までと変わりません。しかし田植え後に、まわりの人が苗の姿を見て「今年は違うね」とおっしゃいます。例年だと倒れて“もやし苗”になるものも一部ありました。 自然栽培は技術として、肥料で太らせるわけではないので、今回のような技術はいるのではないかと思います。植物の生育を助ける技術的なフォローをする必要があると思います。今年やったような、ストレスをかける方法は、何十年も前から知っていたがやっていませんでした。しかし、改めてやってみると稲もしっかりしていて、腰が折れません。自分よりも、まわりの人たちがそのように判断しているから確信が持てました。こういう技術は自然栽培する上でぜひ記事にしてもらってみんなが知るべきことだと思います。みんないろいろと悩んで、自然を先生に自分の田畑にあった技術を見つけていくのだと思います。 【苗作りの工夫.2】 ひとつの技術として苗箱にかけるラブシートがあります。白と黒がありますが、黒を使うようにしています。稲が成苗にならないのでラブシートで、大きさを調整しています。それをしないと苗は小さくなります。ラブシートをかけていると大きくモヤシ苗になるので、そこでローラーをかけています。平成23年から取り組んでいます。 初心者の人が苗を作るうえで一番大事なのは、播種後苗箱に1回たっぷり水をかけることです。苗箱が溺れるくれらいにたっぷりと水をかけます。そうしないと発芽にバラツキが出ます。 【播種時期】 熊本の菊池市七城では5月20日前後に種を蒔いています。6月25日ころに田植えとなります。同じ地域でも高低差があり、日照時間も違います。山手の人は播種が早く、そうすることで積算の温度と日照時間を稼いでいます。みんな同じ条件ではないわけですね。 【ジャンボタニシによる除草について】 no.3 ジャンボタニシによる除草 写真提供 Vアグリ 田村道廣 no.4 ジャンボタニシの卵 写真提供 Vアグリ 田村道廣 除草につぐ除草。昔は苦労ってもんじゃなかった。そんな中、もう20年以上前から、ジャンボタニシが出てきました。稲まで食べてしまいます。タニシを殺してしまえというのが一般の農業ですね。稲を食べてしまうわけですから。しかし、浅水にすることで、ジャンボタニシを除草に利用することができます。深水にすると稲まで食べてしまいます。 なぜかというと、深水にするとジャンボタニシは水に浮いて、雑草の芽吹く水面下の土を這わないのです。ジャンボタニシは浮いてプカプカと移動して苗を食べてしまうのですね。 日本のタニシは地べたを動くのですが、食用ジャンボタニシは水に浮くことができるのです。そして浮いた稲の弱い茎を食べてしまいます。 ところが浅水にするとヒタヒタとした水面下の表土の雑草をジャンボタニシは食べてくれるのです。 そこで私の地域の農家にとって必要になってくる技術は、田んぼをとにかく均平にならすことです。均平で平らにして、代掻をして浅水管理をするとジャンボタニシをうまく活用できるようになります。 ご存知のように、なぜ均平が大事かというと浅水管理したときに、均平でないと水面から表土が現れる場所ができてしまいます。すると草がどうしても出てしまう。だから均平にして水面から表土を出さずに、きれいに浅水管理することが重要なポイントとなります。 もちろんタニシが食べていないところの草は除草します。手除草をしています。機械も一部使いますが、あとは手で入ります。 このバランス・塩梅が大切です。田植えの後は毎日毎日、本当に神経を使います。大雨の後は、水が抜けるように落としておかないと、水が深水状態になってタニシが稲を食べてしまいます。一晩で水はあふれるので、管理が重要です。 【ウンカについて】 西南暖地では、ウンカの被害が農家にとって悩みの種でした。今の時代、自然栽培といってもいろいろあります。しかし普通に純粋に肥料・農薬を使わずにやれば、ウンカの害は少ないのではないかと思います。 苗床の土の質でウンカの発生の如何は変わっているように感じています。 苗床の土に、買った焼土を使っている人、有機肥料を混ぜてやっている人もいます。私の田んぼが、一般栽培の田んぼと隣接していたにも関わらず、隣にはウンカが大発生し、私の田んぼの方は、まったく被害がありませんでした。一切ウンカにやられなかったのは、苗土と田んぼの土の違いかと思います。 いろんな生産者に聞き取りしていて、さらに自然栽培に取り組むメンバーにも聞き取りをしたところ、ウンカの出ている人と出ていない人の差は育苗土にありました。 有機で使っているボカシ、糠ボカシ、肥料っけを使ったものは、なかなか苗床から本田に持っていっても肥料分が抜けないようです。本田でボカシ、肥料が抜けていないから、ウンカが出るのだと想定しています。事実、私の田んぼには、ウンカが出ないわけですから…… no.5 平成17年 ウンカの害に襲われる慣行田とウンカの害を受けていない自然栽培田 カメムシ、ウンカは東南アジアからやってくるといわれます。 私の圃場のある熊本県の西南団地においては、1年にウンカは何回も世代交代します。世代交代しながら数を増やしていきます。6月くらいに飛んできて生まれ変わって増えて、10月に被害が最大となります。東北のように寒いところは、この世代交代の回転が少ないのですね。だからウンカの被害が少ないのは周知のことでだと思います。 ウンカについては、試験場で常に実験しています。 毎年、この時期にこのくらいにウンカの数になると稲が危ないといった具合です。しかし、自然栽培の圃場は、その被害からも最低限守られているというか、ウンカが入ってくる理由がなくなる圃場なのだと思います。 ウンカに壊滅的に慣行栽培の田んぼがやられている年でも、自然栽培は壊滅的にやられてはいません。有機栽培の方が自然栽培と比べると厳しいようです。平成17年のとき、一般栽培では農薬を使っても10町歩単位で、ウンカの被害を受けていました。一方で私のところは、一般栽培と境界線もないけれどウンカにはまったくやられていません。境界線がないところでもウンカの被害がないということは、私の田んぼにウンカが好む環境がないことが想定できます。それがやはり肥料なのだと感じています。 【自然栽培米の食味について】 自然栽培にするとヒノヒカリもササニシキも味の差がなくなってくるように感じています。2011年の11月、私のヒノヒカリと福岡の自然栽培農家松本一宏さんのササニシキを食べましたが、試食しても味が変わらないのです。私は味にはもともと自信がありました。しかしササニシキとヒノヒカリの両方ともサラッとした感じで風味があっておいしいかったのです。 食べてぜんぜん変わらない感じがしました。自然栽培がすごいのか、私のヒノヒカリの味が落ちたのか。自然栽培で種採りしているお米だからこそ、起こってくることだと思います。冨田のヒノヒカリは、最近、自分で自分の米はおいしいといえなくなってきました。やっぱり自家採種を続けた自然栽培のお米、あのサラっとしたのが本当なのだと思います。 【タンパクの含有量】 自然栽培のヒノヒカリは、肥料を使っていないのだからタンパク含有量が減るはずです。通常なら6.0に近くなる。しかし、私の自然栽培ヒノヒカリは7.0くらいになる。不思議なことにタンパク含有量が増えているのです。これはどうしたことか検討する必要があると思います。 【自然栽培全国普及会の活動、自然栽培の型の変化】 お客さんの引き合いが増えてきています。有機より自然栽培への引き合いが増えてきています。この栽培の方に勢いが付いてきていると感じています。 自然栽培へのニーズが高く、かなりの面積が拡大しています。菊池環境保全型農業技術研究会では思いを共有する人たちが研鑽しています。それを中心として、九州では自然栽培を拡大していければと考えています。純粋に思いの強い人が集まって、それを軸に自然栽培と自然栽培全国普及会が広がっていければと思っています。 【取り組んでいる仲間へのメッセージ】 みんなで世の中を変えていく必要があると思います。世界中が健康で幸せになれるようにみんなで気持ちを合わせないと変われないと思います。だれ彼ではなく、地球のため子々孫々までみんなでガンバらなければならない。そういう思いの中で、みんなとがんばっていきましょう。いろんなことをリセットして、みんなで元に戻り、一緒にやっていこう!一人一人を大事にして集っていきましょう。まさに今は変革のとき!われわれは世が世ならば志士に似た存在です。みんなでつながりをもち、世の中をかえていきたい!!そう思っています。 |